『香里の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて妹を愛するようになったか』(2001/日) Kaorin Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Sister (2001/Japan) |
誰もいない空間。 誰もいない時間。 ただ一人虚空を見つめる少女がいる。 香里:……………誰もいないのね。 音のない世界。 想いの存在しない場所。 香里:……帰ろうかしら。 ふっ。 微かな気配。 だが、確かな存在の主張。 ポテト:ぴこぴこぴこ〜。 香里:………………。 音が生まれた世界。 想いが生まれ、場がかき乱される。 ポテト:ぴこっ。 かぷっ。 香里:……なにやってんのよ、栞。 栞?:ぴこぴこ〜!! 香里:今度は頭の病気にでもなったわけ? 栞:……そんなこというお姉ちゃんなんて、嫌いですー。 二つの存在。 ひとつの姉妹。 そして……………。 「やっぱり喋れないと不便ですね。犬畜生は演じきれませんでした」 「畜生って………あなた、言葉遣い悪くなったんじゃない?」 「せめてあのダンスを、と思ったんですけど……」 「だ、ダンス!? ………私にあんなダンスを踊る妹なんていないわ」 「文章だけでは難しかったよ、お姉ちゃん…………ぐふ」 吐血。 真新しい制服が苺色に染まってゆく。 「これを18禁SSにするつもりだったの? って、栞ッ!? 突然どうしたのよ、安っぽい奇跡が起こって直ったんじゃなかったの!?」 「や、安っぽいって……あゆさんが命を賭けて助けてくれたのに……」 「そういうのが安っぽさの要因なんだけど」 「はやく…薬飲まなきゃ……死んじゃう……えっと、テトラドトキシンは……。あった」 チューブで腕を縛って。 「むは―――――」 「あ、ちょっとまちなさいっ、死ぬ気!?」 「もうやっちゃた、手屁」 「……まぁ、いいわ。奇跡はよく起こるから陳腐って言うんだし」 「どういう意味?」 「言葉通りよ。大丈夫ですって。これ、コメディーだから、人死はでないわ」 「あぁ……あんなところに死んだはすのあゆさんが手を振ってるぅ……」 遠いまなざし。 「まったく……元気すぎるのも困るわね」 「あゆさーんなにしてるんですか? え、こっちへ来いって?」 「夕飯までには、還ってきなさいよ」 「はーい……。こっちにはアイスもタイヤキもなんでもあるって? じゃ、逝きますー」 「いっそ、還ってこなくても良いわ。相沢君のこと、いいならね」 ぴくっ。 「相沢さんとアイス……」 「死にネタでたぶらかしてたようだけど、死にそうなのがいいのであって、逝ってしまったら終わりよね」 「うぅ、悩むぅ……」 「後は残された傷心の姉と……って言うのが自然かしら?」 「うぅ……お姉ちゃんなんかに祐一さんは渡さないもん!」 「あら、いいの? あゆちゃんがおっきなアイス持って呼んでるけど? 「わーーーい!!」 誰もいない空間。 誰もいない時間。 ただ一人虚空を見つめる少女がいる。 香里:……………えーっと。 音のない世界。 想いの存在しない場所。 香里:…………。 あたりを見渡す。 他の存在はない。 香里:………やっと楽になれたのね……。 偽善。 策略の涙。 香里:(ふふっ。これで演出もばっちりね。これからは私の時代よ!!) F.O. F.I. 遠ざかる地球を宇宙から眺めつつ。 脚色監督:μ/cauliflower 出演:美坂香里・美坂栞 配給:cauliflower われわれの銀河から遠く離れたゆえに知られざる死の惑星地球は、今日の我々の学術的な興味をそそっている。本日は『滅亡した古代文明シリーズ〜姉妹編〜』としてこの前史の風変わりな喜劇をおとどけしました。 |
2001/10/06
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