『窓をあけて……』

critical point ―レイ―

 僕の中の自制心のかけらが、想いを押しとどめている。
 もし、自制心のたががはずれて、言葉に出してしまったら。
 そのとき、僕は…………。



 ある日を境に、アイの様子が変わった。
 話しているときも、笑っているときも、ただ、黙っているときでも。

 ――ああ、そう言うことなんだな……。

 もう、アイには時間がないんだ。
 きっと、ほんの少しだけしか残っていない。

 どうしてこんな事になってしまったんだろう。
 何であんな事故が起こってしまったんだろう。
 どうしてアイがこんな目に……。

 それからの日々は、地獄だった。
 もうわかっているのに、どちらからも切り出そうとしなかったから。
 もうわかっているのに、今までと同じであり続けようとしていたから。
 もう、わかっているのに、認めようとしなかったから……。

 同じ頃。
 僕は、スズさんを笑顔で見ることができなくなっていた。
 どうして、アイだけ。
 どうして、スズさんは。
 どうして……。

  『死ななければいけないんだ』
  『死なないんだ』

 僕の中の自制心のかけらが、その想いを押しとどめている。
 もし、自制心のたががはずれて、言葉に出してしまったら。
 そのとき、僕は…………。


 ある日を境に、僕はアイに会いにくることができなくなった。
 アイの笑顔が。
 スズさんを見かけることが。
 ……怖くなった。
 本当に、怖かったんだ……。


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2003/07/13