『窓をあけて……』
lunar ―アイ―
緩やかにゆるやかに。
だけど確実に刻は流れていた。
私も、確実に終わりが近づいていることに気づいていた。
はじめは、手、だった。
ちょっとした違和感。
それが数日続いて。
違和感は、日に日に強くなり、そして広がっていった。
――ああ、始まってしまいましたか。
先生はそう呟いて、痛み止めをくれた。
それだけ。
つまりは、そう言うこと。
終わりが、近づいている。
私はこの施設に入っている患者にしては、長い方みたい。
ちょっと特殊な病状のスズさんを除いてだけど。
身体が動かなくなっていくのは不安だったけれど、不思議と怖くはなかった。
ずっとわかっていたことだから。
できれば、最期までレイやマナ、スズさんたちと一緒にわいわい騒いでいたかったけど。
もしかすると、終わりがわかるだけ、心構えができるだけ、よかったのかもしれない。
さよならを言えるから。
レイや、マナや、スズさんに、別離(わかれ)を告げられるから。
別れ、を。
…………。
………………。
……………………。
嫌っ!
別れを告げたくなんてない、別れるなんて絶対に嫌だ!!
嘘。
怖くないなんて嘘。
ううん、死ぬことそのものはそんなに怖くない。
でも、だけど。
みんなと別れること。
二度と会えないこと。
それが……怖かった。
死ぬとどうなるの?
私は? その後のみんなは?
ううん。
きれい事なんて必要ないわね。
みんながどうなるか……極端に言ってしまえば、そんなことはどうでもいい。
私が、つらいの。
私が、別れたくないの。
私が…………私は死にたくない!!!
ねぇ、誰か。
誰か私を助けて!
神様でも仏様でも……生きていられるなら、みんなと別れないですむなら悪魔だってかまわない!!
私は、生きていたい。
みんなと、いつまでも、一緒に。
それが、狂気に満ちた夢だと知っていても…………。
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2002/10/19
修正 2003/04/06