『窓をあけて……』

nostalgia −スズ−

 固く閉ざされた、窓。
 それを覆い隠している、カーテン。
 細かな模様や、汚れの位置まで、覚えている。
 だって、ずっと、見てきたから。
 ずっと。
 いつの頃からなのかはわからない。
 それを見つめるようになったのは。

 外。
 どんな場所なのか、よくわからない。
 私にとって『外』は、本やお話の世界でしかないから。

 ……なのに。
 知らないはずなのに。
 どうしてか、窓の向こうに懐かしい世界が広がっている気がして。
 外になんて出たことはないはずなのに。
 どうしてか、窓の向こうが本当の私の世界のような気がして。
 ……帰りたい。
 そう感じて、カーテンに覆われた窓を見つめていた。
 帰りたい……還りたい。

 アイさんたちの話す外の世界。
 光が溢れ、生命に満ちた場所。

 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな
 かすかなるむぎぶえ
 いちめんのなのはな

 どこかで聞いた詩の情景が、目に浮かんで。
 やっぱりそこが、私の還る場所。
 それは憧憬?
 ……ううん。
 きっと、郷愁。
 私に受け継がれた命が、還りたがっている。
 生命が、生まれたのは、外、なんだから。

 『絶対、一緒にここを出ようね』

 そう、ですね。
 アイさんなら、出られるかもしれない。
 そのときはきっと、私も一緒に外の世界に。
 死んだ心で生きているより、生きた心で、還りたいから……。


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2002/05/12
修正 2003/04/06