『letter...〜投函されない手紙・妹〜』
私には、お姉ちゃんはいない。
お姉ちゃんなんて、はじめから……。

そう、思えば。
そう、割り切れれば。
苦しみから抜け出せると思った。
楽になれると思った。
だけど。
そう、思った分。
よけい苦しくなった。
いつか。
体の痛みや苦しみなら、いつか忘れられるけど。
なくした帽子のことは忘れられるけど。
大好きなお姉ちゃんのことを、忘れるなんて出来なかった。

――次の誕生日までの命よ。
お姉ちゃんがそう言ったときから。
――私には、妹なんていない。
そう、言ったときから。
私の大好きなお姉ちゃんはいなくなった。
いなくなった、そう割り切ってしまえればよかったのに。

私の大好きな、本当に大好きなお姉ちゃん。
香里お姉ちゃん。
私が逝ってしまった今。
もはやお姉ちゃんには届かないけれど。
それでも、私はお姉ちゃんに手紙を書きます。
空に、雪に、世界に。
お姉ちゃんに、私の魂に、全てのものに記して、手紙を書きます。
私の愛がつまった、この手紙を。
私の罪がつまった、この手紙を。

もはや、後悔も出来ないけれど。
もはや、取り戻すことも出来ないけど。
でも。
想いだけは伝えたい。
本当に。
心から。
真に愛していたと。
真に憎んでいたと。
お姉ちゃんがいてくれたから。
お姉ちゃんがいたせいで。
愛しさを知った。
苦しさを知った。
喜びを知った。
絶望を知った。
だから。
私はお姉ちゃんのことを誰よりも、愛している。
私はお姉ちゃんのことを誰よりも、憎んでいる。
そう、誰よりも。

それが、私の存在した証明。
私が私である証明。
世界がここにある、証明。
誰よりも愛されて。
――誰よりも愛して。
誰よりも憎まれて。
――誰よりも憎んで。
それだけが、私が妹だった証だから。
――あなたが妹だった証だから。
だから。
――だから……。

だから、この手紙を書きます。
消して届かない手紙だけど。
それでも、私は手紙を書きます。
空に、雪に、世界に。
お姉ちゃんに、私の魂に、全てのものに記して、手紙を書きます。
私の愛がつまった、この手紙を。
私の罪がつまった、この手紙を。
それが。
それだけが、私に出来ることだから。
私の生まれてきた理由だから。
私としての。
美坂栞としての、証明だから。

...fin

これは『香里の缶詰』に掲載した『letter... 〜投函されない手紙・姉』の対になる作品です。
姉妹がお互いに愛し合っていたからこそ、憎み会っていたからこそ生まれた物語。
人は悲劇と簡単に言ってしまうけれど、決してそんなものじゃありません。
悲劇であり、喜劇であり……それが人生と言う奇跡では内でしょうか。
『奇跡は起こらないから奇跡』。
そんなことはありません。
今この世界に生きていること、それこそが大きな奇跡なのですから……。

2001/01/04
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